大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 平成2年(少ハ)3号 決定

少年 N・K(昭44.4.3生)

主文

本人を平成2年12月21日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

(申請の要旨)

本人は、平成元年3月22日東京家庭裁判所で覚せい剤取締法違反保護事件について中等少年院送致の決定を受け、同月24日榛名女子学園に収容されたものであるが、平成2年3月21日をもって収容期間が満了となる。

本人は、平成元年4月24日2級上に、同年11月1日1級下に進級しているが、入院以来既に10か月を経過しているにもかかわらず、小反則を繰り返して2度にわたり懲戒処分を受けるなど、規範意識や自己改善に取り組む姿勢に乏しい生活状態で成績の向上が一向にみられず、成績不良の特定の者と結びつくなど、周囲の雰囲気に流される生活を送っている。

また、本人の場合、実父母が本人を引き受ける意思を明示しているが、従来の住所に帰住した場合には、これまでの不良交友を断ち切ることが困難と思われることから、実母の知人が新築した千葉県下のホテルに、実父母と本人の3人で住み込み就職することが決まっている。

本人の処遇経過及び成績並びに受け入れ環境については上記のとおりであるが、現在の処遇段階は1級下であること、本人の問題改善はなお不十分であり、その犯罪的傾向が未だ十分に矯正されたとはいい難いことにかんがみると、期間内に十分な教育を行うことは困難である。また、入院前の覚せい剤への依存傾向の深刻化、不良成人との親密な関わりに徴すると、施設内教育終了後も、引き続き専門家による指導監督、補導援護が是非とも必要である。

よって、期間満了の翌日から院内処遇期間約3か月、仮退院後の保護観察期間約6か月、合計9か月の収容継続を申請する。

(当裁判所の判断)

1  本件申請については、本人の保護処分歴、少年院における成績、本人の性格・行動傾向・問題点、受け入れ状況等の事情にかんがみると、保護観察期間を含めて9か月間本人を中等少年院に継続して収容することが相当であると考えられる。その理由は以下のとおり。

2  本人の保護処分歴、少年院における成績、本人の性格・行動傾向・問題点、受け入れ状況等の事情については、次のような事実が認められる。

(1)  本人は、昭和63年6月2日横浜家庭裁判所小田原支部で恐喝未遂保護事件により保護観察に付する旨の決定を受け、社会内における更生を期待されたが、上記決定後間もなく暴力団組員と交際を深め、自宅を出て同棲同然の生活を送る中で覚せい剤の濫用を繰り返し、いったんは実父母の指導に従い上記組員との関係を絶って立ち直るかにみえたものの、約3か月で同人との関係が再燃し、本件の覚せい剤取締法違反の再非行に至り、平成元年3月22日東京家庭裁判所で中等少年院送致の決定を受けるに至ったこと。

(2)  本人の榛名女子学園における成績は上記申請の要旨のとおりであり、全般的にみて向上心や改善意欲に欠けており、指導に対する受け止めは表面的なものに止まり、自己の問題点と正面から対決し、これを克服していこうという積極的な姿勢に乏しく、本人の教育目標として設定された〈1〉自己中心性の矯正、自己抑制力の涵養、〈2〉薬物濫用、暴力団組員との交際の廃絶、〈3〉善悪の判断力の涵養、規範意識の向上、健全な社会生活を送る能力の育成の3項目の達成は、いずれも不十分といわざるを得ないこと。

(3)  自己中心性が強く、問題回避的な行動傾向や享楽的生活の志向が顕著に認められるなどの本人の性格・行動傾向上の問題点については、残された矯正教育の期間中にさらに個別的な処遇により、改善意欲を喚起して、社会復帰後も改善努力を持続させていく必要があること。

(4)  本人の出院後の受け入れについては、実父母が引受けを申し出ているものの、経営者の倒産により千葉県下のホテルに本人とともに住み込み就職することが不可能となったため、従前の住所に帰住することとなるが、本人はもちろんのこと、暴力団組員等の素行不良者との交友の復活に不安を感じている実父母に対しても援助が必要であり、出院後も一定期間は専門家の指導下に置くことが必要と考えられること。

3  以上のような事情にかんがみると、本人の犯罪的傾向は未だ十分矯正されておらず、少年院を退院させるには適当でなく、かつ、出院後も相当期間保護観察を必要とする事情があることが認められる。したがって、本人の少年院における収容を継続する必要があると認められるが、収容を継続すべき期間としては本人の出院予定時期、保護観察をすべき期間などに徴すると、9か月が必要と考えられるから、本人を平成2年12月21日まで継続して収容するのが相当である。(なお、本人については、収容処遇の期間が不相応に長期にわたらないよう、また、本人の改善意欲の低下を招来することのないよう具体的教育目標の設定、できる限り早期の出院の検討等処遇上の特段の配慮をされるよう希望する。)

よって、少年院法11条4項、少年審判規則55条により主文のとおり決定する。

(裁判官 志田洋)

〔参考〕 収容継続申請書〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例